湖底の手紙

湖底の手紙

日の光が全く届かない深い深い湖の底。一つのランプを頼りに、机に向かい手紙を書いている。

紙をなぞる鉛筆のサッサ、カツカツという音が鮮明に響く。時折、魚か何かの気配を感じるが泳ぐ音は全く聞こえない。他に聞こえる音といえば、低いエコーがかった水を伝わる音だけ。

音の正体を確かめたくても、ランプの光より外にあるらしく、確認することはできなかった。
わずかに肌寒い感覚が、水の流れが変わることで、暖かかったり冷たかったり変化した。
手紙を書く手が止まり、また動き出す。この繰り返しが、何度も何度も続く。

暗がりをしばらくじっと見つめ、今度はしばらく目を閉じる。同じ暗闇でも、目に映る色はどこか違って見えた。一つ二つ大きく深呼吸をし、また手紙を書き始める。

手の動きが徐々に加速し、加速した手は止まることを忘れ、どんどん書き続ける。それと同時に、紙をなぞる音もどんどん力強くなっていく。まもなくして、ピタッと手が止まり手紙は書き上がった。
一文字一文字、字の形を味わうように文と宛名を読み返す。手に持った手紙は、ほんのり温かく感じる。

「手紙を出すのは、明日にしようか。」